中央に位置する丸いクロックが、どっという音を立てて深夜の十二時を告げた。それと同時に、学校全体が静まり返り、町の喧騒から隔てられた別世界のような雰囲気に包まれた。そこは一見すると普通の中学校だったが、夜になると何かが違う。そんなことを感じるのは、私だけだろうか。
「今日は夜まで勉強するつもりだったけど、この雰囲気になるとさすがに帰りたくなるよな…」私の友人、田中はそう呟いた。彼は普段は陽気な男子で、怖がりなどとは程遠い。しかし、この学校の夜に対しては、どこか畏怖の念を抱いていた。
「うん、そうだね…」と私も返事をした。私たちは一緒に学校の廊下を歩いていた。廊下には淡い月明かりが差し込み、壁に映し出された私たちの影は揺らぎながら先へと進んでいく。
田中は再び言った。「お前、4階の話、聞いたことある?」
その言葉に私は驚いた。「4階? この学校は3階建てだろ。」
田中はにっこりと笑った。「そう、普通はそうだ。でも、夜の学校では話が違うんだ。」
彼の言葉に私は思わず固まった。「どういうこと?」
田中は謎めいた笑みを浮かべた。「夜のこの学校には、3階建てのはずの校舎に4階が現れるんだってさ。でも、そこに登ると二度と帰れないとも言われている。」
私はその言葉に驚きながらも、何か不思議な魅力に引き込まれていく感じがした。「それって、異世界につながっているとか?」
田中は肩をすくめた。「誰も実際に行って帰ってきた者がいないから、誰にもわからない。ただ、それが都市伝説として語り継がれている。」
私たちはその話をしながら、無意識のうちに階段に足を踏み入れていた。
…
「よし、じゃあ行ってみるか?」田中の挑戦的な提案に、私は一瞬、言葉を失った。しかし、同時に心の中には、未知への興奮と冒険心が湧き上がってきた。
「うん、行ってみよう。」勇気を振り絞り、私は言った。私たちの心は、都市伝説の闇に包まれた4階へと導かれていった。
私たちは3階へと足を進めた。廊下はいつもと変わらないように見えたが、なんとなく空気が違った。いつもは賑やかな教室の窓からは、月明かりしか差し込まず、廊下の奥には深い闇が広がっていた。
「ここから先が4階への階段らしいんだ。」田中が指さしたのは、普段は扉で閉ざされているはずの場所だった。しかし、今はその扉が開いていて、暗い階段が見えた。
私たちは息を呑み、その階段を見上げた。冷たい空気が顔に当たり、背筋がぞくりと寒くなった。それでも、私たちは一歩、また一歩と階段を上がった。
上がりきったところには、閉ざされた扉があった。それは他の階と同じような普通の扉だったが、なんとなく異様な感じがした。田中がゆっくりと扉のノブを回した。カチッという音が響き、扉が少しだけ開いた。
私たちは息を止めて扉を押し開けた。その先に広がっていたのは、暗闇に包まれた廊下だった。しかし、その廊下はなんとなく3階のそれとは違い、見たこともないような奇妙な形状をしていた。
「これが4階か…」田中がつぶやいた。私たちは、あまりの異様さに言葉を失っていた。
4階の廊下を進むと、まるで時間と空間が歪んでいるかのような感覚に襲われた。廊下の奥には無数の扉が並んでいて、そのどれもが普段の教室の扉とは違う、どこか異次元のような存在感を放っていた。
…
「どれを開けるか、決めてみるか?」田中の声が、4階の異次元のような雰囲気を一瞬だけ切り裂いた。
私は無数の扉を見つめながら、思った。「そうだね、じゃあ、あの扉にしよう。」私が指さしたのは、他の扉とは何か微妙に異なる色合いの扉だった。
私たちはその扉に近づき、ノブを握った。心臓がドキドキと鳴り響き、まるで胸が飛び出しそうだった。しかし、冒険の興奮がそれを上回り、私たちは扉を開けた。
その瞬間、視界が一変した。そこに広がっていたのは、まるで別世界のような景色だった。広大な草原、遠くには川が流れ、森が広がり、空には輝く星が無数に浮かんでいた。
「これが…異世界?」私たちは言葉を失った。田中は唖然とその光景を見つめていた。
そのとき、背後から扉がガシャンと閉じた音がした。私たちは慌てて振り返ると、扉は消えていて、代わりに壁が広がっていた。再び振り返ると、先ほどの草原は消え、代わりに森の中にいた。
「これは…まさか、これが都市伝説の『二度と帰れない』ってやつ?」田中の声が震えていた。私も同じくらい、いや、それ以上に怖くて震えていた。
周りを見回すと、どこまでも続く森の中には、見慣れない形の木々や花々が広がり、空には奇妙な色の月が浮かんでいた。そして、何よりも異様だったのは、その空の色だ。まるで夢の中にでも迷い込んだかのような、不思議な色彩が広がっていた。
私たちはしばらくその場に立ち尽くしていた。しかし、何も進展がないことに焦りを感じ、私たちは手探りで森を進んでいくことにした。
異世界の森を進むと、次第に見慣れない生物たちの声が聞こえてきた。
…
異世界の生物たちの声は、私たちの知っているものとは全く違った。それらはどこか畏怖すら感じさせるもので、私たちの心はますます混乱していった。
「どうしよう、もう完全に迷子だよ…」田中の声は、絶望に近いものがあった。
しかし、そんな中でも私たちは進み続けた。そして、突然、森の中に一つの光が現れた。それは遠くから見ると、まるで星のように輝いていた。
「あれは何だろう?」私たちは互いに顔を見合わせた。それから、私たちはその光に向かって進んでいった。
その光の源に近づくと、それが何かを理解することができた。それは、まるで扉のように見えた。そして、その扉からは温かな光が漏れていた。
私たちはその扉に近づき、ゆっくりとノブを回した。すると、扉が軋む音を立てて開いた。その先には、見覚えのある風景が広がっていた。
「これは…学校?」私たちは驚いた。扉の先には、見覚えのある学校の廊下が広がっていた。そして、その廊下の端には、まるで夜明けのような明るい光が差し込んでいた。
私たちはその光に向かって駆け出した。そして、その光の先に出ると、そこは学校の校庭だった。そして、その空には朝日が昇り始めていた。
私たちはしばらくその光景を見つめていた。そして、互いに顔を見合わせて、笑った。それは、無事に帰還できた喜びと、経験した冒険の興奮が混ざり合った笑顔だった。
私たちはその後、家に帰り、夜の学校での出来事を語り合った。それはまるで夢のような出来事だったが、私たちの心にはそれが現実だったことが刻まれていた。
それから、私たちは夜の学校を訪れることはなかった。しかし、あの夜の出来事は私たちの心に深く刻まれ、それが私たちの間で語り継がれる新たな都市伝説となったのだった。
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