1900年の冬、厳しい寒さが襲ったヘブリディーズ諸島。その中に位置するフラナン諸島最大の島、アイリーン・モア島には、新しく建設されたばかりの灯台が立っていた。島には古くから妖精の伝説があったが、灯台は航行する船の安全を確保するためのもので、その管理を任されたのは3人の灯台守、ジェームズ・デュカット、ドナルド・マッカーサー、トマス・マーシャルだった。
島の生活は厳しく、孤独な毎日が続いたが、3人は任務を全うするために励んでいた。しかし、1900年の12月15日、貨物船アーチャー号が船の向きを変えようとした際、アイリーン・モア灯台の光が見当たらなかった。アーチャー号の船員達は驚き、緊急信号を出して待ったが、灯台からは一切の反応がなかった。
不審に思ったアーチャー号の船員達は、直ちにヘブリディーズ諸島へと情報を伝えた。しかし、救助隊が組織され、灯台へ向かうまでには数日が必要だった。それまでの間、島の灯台は暗闇に包まれ、周囲の船舶は危険な状況に晒された。
その後10日経った12月26日、定期的に食料等を補給に来ていたヘスペラス号が島に到着した。船長のジム・ハーヴィーは、灯台が見えると同時に船の汽笛と大砲を鳴らし、灯台の3人に呼びかけた。しかし、その音にも反応はなく、灯台からは静寂が広がっていた。
ハーヴィー船長は不安を覚えながらも、船員達にボートを降ろすよう命じた。ボートに乗った船員達は、波立つ海を進みながら、何度も呼びかけたが、灯台からは一切の反応がなかった。
…
船員たちは灯台の扉をそっと開けた。中には誰もいない。だが、一見すれば普通の灯台の光景だった。灯台の中はきちんと整理されており、ランプにも何の異常もなかった。ただし、3人の灯台守の姿だけがどこにも見当たらなかった。
船員たちは、3人がどこかに出かけたと考え、まだ安心していた。しかし、灯台内を調査するうちに、彼らの安心感は徐々に消えていった。食事の準備がされたままのキッチン、未完成の日記、そして消灯されたランプ。これらはすべて、灯台守たちが急に姿を消したことを示していた。
船員たちは、島全体を捜索することを決定した。厳しい寒さの中、彼らは島をくまなく探し回ったが、灯台守たちの姿を見つけることはできなかった。唯一見つかったのは、島の西側にあった暴風雨の痕跡と、岩の割れ目に常備してあったはずの道具箱の欠如だけだった。
また、デュカットとマーシャルの防水用のオイルスキンが見当たらないことが発覚した。これらの発見から、船員たちはデュカットとマーシャルが暴風雨の中で何か作業をしていて、誤って海に投げ出された可能性があると考えた。
しかし、それではマッカーサーがどこに消えたのか説明がつかなかった。彼のオイルスキンだけは、灯台の中にしっかりと残されていたのだ。また、3人がそんなに危険な天候の中で作業をする理由も不明だった。
船員たちは、恐怖と混乱の中で夜を迎えた。灯台のランプを再点火し、他の船が同じ運命を辿らないようにした。その夜、アイリーン・モア灯台は再び光を放つようになった。しかし、その光は、消えた3人の灯台守の謎を照らすことはできなかった。
…
翌日、救助隊が到着した。彼らは灯台を詳細に調査し、島全体を捜索したが、灯台守たちの姿は見つからなかった。救助隊は灯台内の日記を調査し、最後のエントリーを見つけた。それはデュカットが書いたもので、暴風雨が接近していることと、マーシャルが神経質になっていることを記していた。
救助隊は、灯台の近くの岩場に赴き、道具箱を探したが、見つけることはできなかった。しかし、何故か暴風雨の後にも岩場にはロープとライフベルトがしっかりと留められていた。これらは灯台守たちが使用するもので、灯台守たちが突堤から落ち、海に飛び込んだとすれば、これらの装備が使用されているはずだった。
これらの事実は、一体何が起きたのかという謎を深めるばかりだった。もし3人のうちの誰かが足を滑らせて突堤から落ち、他の2人が彼を助けるために飛び込んだとすれば、なぜロープやライフベルトは使われなかったのか?そして、なぜ3人全員が消えたのか?
さらに、マッカーサーのオイルスキンが灯台内に残されていたことも深い謎だった。彼が一緒に海に飛び込んだとすれば、なぜその防水服だけが残されていたのか?そして、なぜ彼らは暴風雨の中、外で作業をしていたのか?
救助隊は、一連の事象について何も解明できなかった。ただ、3人の灯台守が一緒に海に飛び込んだ可能性が最も高いと結論づけた。しかし、それはあくまで推測であり、真実は闇の中に葬られたままだった。
…
その後、アイリーン・モア灯台は再び稼働を開始した。新たな灯台守が配置され、失われた3人の灯台守の代わりに光を守り続けた。しかし、灯台守たちは常に不安を抱えていた。彼らは3人の灯台守が突如消えたこと、そしてその理由が全く分からないことに深い恐怖を感じていた。
時間が経つにつれて、アイリーン・モア灯台事件は伝説となった。失踪した3人の灯台守は、島に住む妖精たちに連れ去られたのだという話が広まった。また、3人のうちの誰かが狂気に駆られて他の2人を殺し、その後自分自身も海に飛び込んで死んだという説も囁かれた。
しかし、真実は誰にも知られていない。アイリーン・モア灯台の3人の灯台守がどこへ消えたのか、なぜ消えたのか、その謎は未だに解明されていない。彼らが遭遇したであろう恐怖と混乱、そして最後に何が起こったのか、それは闇の中に永遠に封じられたままだ。
そして今でも、アイリーン・モア灯台は、静かに海を照らし続けている。あの日から何も変わらない灯台は、失われた3人の灯台守を思い起こさせる。彼らの消え去った謎は、今もなお、人々の想像をかき立て、アイリーン・モアの伝説を永遠に語り継がせるのだ。
コメントを残す