ある蒸し暑い夏の夜、古びた都市の片隅にある公園で、一人の男が闇に紛れて歩いていた。彼は、噂になっている奇妙な取引について調べるためにやってきた。この公園では、夜な夜な「口裂け女」と呼ばれる怪物と、不思議な取引が交わされているという。男は、怪談好きな友人からその話を聞いたばかりで、好奇心に駆られて公園に足を運んでいた。
公園は、古い樹木に囲まれており、月明かりがぼんやりと照らす。彼が歩く度に、静かに揺れる木々の葉が、まるで囁くような音を立てていた。男は息を潜めて進んだ。
やがて、彼はその場所を見つける。公園の奥にある、古い滑り台のそばのベンチで、不気味な雰囲気を漂わせていた。そこには、一人の男が何やら不安げに周囲を見渡していた。彼は、取引を行う人間の一人だろうか。
男は、木陰に身を隠しながら、様子をうかがっていた。すると、その時だった。突如、口裂け女が闇から現れた。彼女は、長い黒い髪に、口元から耳にかけて裂けた恐ろしい顔を持っていた。男は思わず息を呑んだ。
口裂け女は、ベンチに座っている男に近づき、彼と話し始める。二人の会話は、遠くからでは聞き取りづらかったが、男は必死に耳を澄ました。どうやら、口裂け女は、何かを渡すことで、男が望む願いを叶えると言っているようだ。
しかし、代わりに、男は口裂け女に何かを提供しなければならない。それが、この取引の条件だった。男は、その条件に戸惑いつつも、何かを口裂け女に手渡した。すると、口裂け女はニヤリと笑い、闇へと消え去った。
一連のやり取りを見た男は、驚愕と興味が入り交じり、自分もその取引をしたいと思った。
…
取引を終えた男は、恐ろしい顔をした口裂け女が消えた後も、まだ戸惑いが隠せない様子で立ち尽くしていた。主人公の男は、彼に話しかけることを決意し、木陰から姿を現した。驚く取引を行った男に、主人公は質問を投げかけた。
「あなたと口裂け女は何の取引をしたんですか?」
取引を行った男は、驚きと疑いの表情で主人公を見たが、次第に恐怖に打ち震える様子で言葉を紡ぎ出した。
「彼女は、私が望む願いを叶える力を持っていると言っていた。ただし、その代わりに大切なものを彼女に提供しなければならないという条件が付いている。私は妻の病気を治すことを願った。だから、彼女に最も大切な思い出の品を渡したのだ。」
主人公は、取引を行った男の言葉に戸惑いながらも、自分も口裂け女と取引をしてみたいという気持ちが湧き上がってくるのを感じた。そんな時、再び口裂け女が闇から現れた。彼女は、主人公の男に向かって微笑んだ。
「あなたも私と取引をしたいのですね。私はあなたの望む願いを叶えます。しかし、その代わりにあなたが最も大切にしているものを私に渡す必要があります。」
主人公は、口裂け女の言葉に迷いながらも、自分の望む願いが叶うことに惹かれて、取引をすることを決意した。彼は、最も大切なものを彼女に手渡し、願いを告げた。
「私の願いは、仕事で成功して、家族に安定した暮らしを与えることです。」
口裂け女は、主人公の願いを聞き、再び不気味な笑みを浮かべた。
「それでは、取引成立です。願いは叶えてあげましょう。」
そう言って、口裂け女は再び闇へと消え去った。
…
数ヶ月後、主人公の男は驚くほどの速さで仕事で成功を収め、家族に安定した暮らしを提供できるようになっていた。しかし、彼は口裂け女との取引を忘れられず、その代償が何なのか気になっていた。ある晩、彼は再び公園を訪れる決意をし、闇の中へと足を踏み入れた。
公園に到着すると、その場所には以前取引を行った男が立っていた。彼は何かを探しているように周囲を見回しており、主人公に気づくと、その顔に絶望が浮かんでいた。
「あなたもまたここに来たのですね。私は口裂け女に妻の病気を治してもらった代わりに、妻との大切な思い出を失ってしまいました。もはや妻との楽しかった日々を思い出せないのです。」
その言葉に驚く主人公。彼は、自分が口裂け女に渡したものが何だったのか、急に思い出せなくなっていたことに気づいた。そして、その時、再び口裂け女が現れた。
「あなたたちが私に渡したものは、それぞれの願いを叶える力を持っていた。しかし、その代償として、あなたたちは大切なものを失ったのです。」
主人公は、自分が失ったものが何なのか問いかけた。
「あなたは、家族と過ごす時間を失いました。成功と安定した暮らしを手に入れた代わりに、あなたは家族との大切な時間を犠牲にしてしまったのです。」
口裂け女の言葉に、主人公は愕然とした。確かに、彼は仕事で成功したものの、家族と過ごす時間がどんどん失われていった。そして、その事実に気づかずにいたことにもショックを受けた。
口裂け女は再び消え去り、主人公と取引を行った男は、それぞれ失ったものを取り戻すための道を模索し始めた。その後、二人はそれぞれの人生に戻り、大切なものを守ることの大切さを肝に銘じることとなったのだった…
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