田舎の小さな町、静かな夜。月明かりだけが古びた一軒家を照らしている。寝室で新聞を読んでいた老人、松本は突如として門の鈴が鳴る音に驚いた。何度も何度も鳴り響く門の鈴。一体誰がこんな時間に訪ねてくるのだろうと思いながら、松本は玄関へと足を運んだ。
開けた扉の先には、見知らぬ子供たちが二人立っていた。男の子と女の子、二人とも黒い服を着ていて、月明かりに照らされてもその顔色は青白く、まるで彫像のようだった。子供たちは微動だにせず、ただ黙って松本を見つめていた。
「どうしたの?こんな時間に?」と松本が尋ねると、男の子が口を開いた。
「電話を借りてもいいですか、迷子になってしまったんです。」
声は無表情で、感情が感じられなかった。しかし、迷子になった子供を放っておくわけにはいかない。松本は子供たちを中に入れようとした。その時、子供たちの目が見えた。鮮烈な黒さ。全てが黒い。白目も瞳も黒。それは異常なほどの深い闇を感じさせ、松本の背筋に冷たいものが走った。
まるで子供たちは何かを求めているように、その黒い目で松本を見つめ続けていた。しかし、その視線は冷たく、感情の欠片すら感じられなかった。それはまるで、人間の目ではないようにさえ見えた。
松本は恐怖に震えながらも、何とか声を絞り出した。「ごめんなさい、電話は壊れていて使えないんだ。」と。
子供たちは何も言わず、ただ松本を見つめ続けた。その視線に耐えきれず、松本は慌てて扉を閉じた。
彼の心臓はまだ激しく鳴り響いていた。彼は自分の経験を信じられず、頭を抱えた。
…
松本はその夜、眠れなかった。子供たちの黒い目が、彼の心に深く刻まれていたからだ。彼は次の日、町の図書館へと足を運んだ。何か手がかりがないかと探していた。そして、都市伝説のコーナーで、一冊の本を見つけた。
その本の中には、”黒い目を持つ子供たち”についての記述があった。それは全国各地で報告されている都市伝説で、子供の姿をした存在が深夜に人々の家を訪ね、電話を借りるなどの助けを求めるというものだった。
しかし、一度彼らを家に入れてしまうと、不可解な事象が発生するという。家の中で物が壊れたり、家族が突然病に倒れたりと、不運が重なるとされていた。そして、それらの子供たちは全て共通して黒い目を持っているという。
松本は本を閉じ、深く息を吸った。彼は自分が出会った子供たちが、その都市伝説の子供たちと同じだと確信した。彼は幸いにも子供たちを家に入れなかったが、彼らが再び現れたらどうすればいいのか、松本は自信を持てなかった。
その日以降、松本はいつも戸締りをしっかりと確認し、夜になると電気をつけて過ごすようになった。しかし、それでも松本の心の中には不安が渦巻いていた。彼は夜ごとに黒い目の子供たちのことを思い出し、恐怖に打ち震えた。
そしてある晩、再び門の鈴が鳴った。松本は身体が硬直し、心臓が高鳴った。その音は確かに、彼を再び恐怖へと誘い込もうとしているかのようだった。
…
恐怖に襲われながらも、松本は勇気を振り絞り玄関に向かった。覗き穴から外を見ると、やはりそこには二人の子供たちが立っていた。男の子と女の子。そしてその目は、前回と同じく真っ黒だった。
「電話を借りてもいいですか?」男の子が再び尋ねた。その声は前回と同じく無感情で、まるで人間のものではないかのようだった。
しかし、松本は今回は違った。彼は読んだ都市伝説の本の内容を思い出し、決断した。彼は息を深く吸い込み、扉の向こうの子供たちに向けて声を出した。
「ごめんなさい。あなたたちはここには入れません。」そう言って、彼は再び扉を閉めた。
その後、門の鈴の音は二度と鳴らなかった。松本は長い間、玄関に立ち続けた。その後、彼の家には再び不運が訪れることはなく、彼自身も健康を保ち続けた。
松本が出会った黒い目の子供たちは、一体何者だったのか。それは未だに誰にもわからない。しかし、松本はその体験を通じて、人間が理解できない何かがこの世界に存在することを痛感した。
そして、もし再び黒い目の子供たちが現れたとしても、彼は自分の決断を信じて立ち向かうだろう。それが、彼が得た唯一の教訓だった。
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