ある街の片隅にある、小さなコンビニがこの話の舞台です。この街は普通の街で、普通の人々が暮らしていました。しかし、時折この街で語られる不思議な話がありました。深夜にコンビニを訪れる謎の客が、その都市伝説の主人公でした。
この謎の客は、毎月第一土曜日の深夜2時に現れると言われていました。その客はいつも同じ格好をしていました。黒いフード付きのコートに、黒いマスクで顔を隠し、黒い帽子をかぶっている。店員たちは彼を「深夜の黒衣」と呼んでいました。
深夜の黒衣は、決まって冷凍食品のコーナーで、手に取った商品をじっくりと見つめるのです。そして、いつも同じ商品、冷凍のパスタを一つだけ買っていました。その後、レジで支払いを済ませ、静かに店を出ていくのですが、その姿はいつも見るものの誰も顔を見たことがありません。
店員たちの間で噂されるその客には、様々な説がありました。一部では、彼は過去の罪を悔やむ亡霊だと囁かれていました。彼が毎回同じ商品を買うのは、生前愛した家族と共に食べるためだと言われていました。また、他の者たちは彼を亡くなった恋人に取り憑かれた人物だと信じていました。彼女が生前好んで食べていたパスタを、彼女のために買い続けているというのです。
しかし、真相は誰にもわかりませんでした。街の人々は彼について話し、恐れを感じると同時に興味も抱いていました。やがて、この都市伝説は街を出て、他の場所にも広がっていきました。そして、彼に関する噂はさらに奇妙で不気味なものへと発展していったのです。
…
ある晩、新しくこの街に引っ越してきた青年・健太が、友人からこの都市伝説を聞かされました。彼は物語に興味を抱き、深夜の黒衣を自分の目で見てみたいと考えました。そして、決意を固めた健太は、次の第一土曜日の深夜2時に、コンビニの近くに潜んで待ち構えることにしました。
そして、その日が来ました。健太はコンビニの外に隠れ、深夜の黒衣が現れるのを待っていました。時計の針が2時を指すと、まるで予定通りに、彼がコンビニに姿を現したのです。健太は興奮を抑えつつ、彼の動向を見守りました。
彼はいつものように、冷凍食品コーナーでパスタを選び、レジで支払いを済ませ、静かに店を出て行きました。健太は、彼がどこへ向かうのか追跡することを決意しました。そうして、深夜の黒衣が行く先々で、彼の後をつけました。
深夜の街を進む黒衣の姿は、まるで影のようでした。彼は時折振り返り、周囲を警戒している様子がありましたが、健太は彼に気づかれないように距離を保ちながら追跡を続けました。そして、ついに彼が目的地に到着すると、その場所は、街の外れにある古びた墓地でした。
彼は墓地の中へと入っていきましたが、健太は恐怖にかられ、なかなか踏み入れる勇気が出ませんでした。しかし、彼の真相を解き明かすためには、自分が行動を起こさなければならないと思い直し、彼の後を追って墓地に入りました。
…
健太は、深夜の黒衣が進む先を慎重に追いかけました。墓地は静寂に包まれ、月明かりが微かに照らす墓石の影が踊っているように見えました。健太は心臓の鼓動が耳に響くのを感じながら、彼を追い続けました。
やがて、彼は墓地の奥にある一つの墓石の前で立ち止まりました。彼はそこで、持っていた冷凍のパスタを開け、墓石の前に丁寧に供えました。その後、彼は墓石に向かって小さな声で何かをつぶやいているようでした。
健太は、彼が立ち去った後にその墓石に近づき、そこに刻まれていた名前を確認しました。それは、若くして亡くなったとされる、ある女性の名前でした。彼女はかつてこの街で大変人気があった料理教室の先生であり、彼女の特技はパスタ料理だったと言われていました。しかし、数年前に突然の病に倒れ、亡くなってしまったのです。
健太は、深夜の黒衣が彼女の墓前にパスタを供える理由を理解しました。彼は彼女と何らかの深い繋がりを持っていたのでしょう。彼が彼女のために毎月同じパスタを買ってきては、彼女の墓前で供えることで、彼女に対する想いを伝えていたのです。
その後、健太は街の人々に深夜の黒衣の正体と真実を話しました。彼がただ、亡き恋人に対する想いを伝えるために、毎月の儀式を続けていただけだと知った人々は、彼に対して恐怖心や不安を感じることはなくなりました。そして、徐々に彼に関する都市伝説も忘れ去られていったのです。
時は流れ、健太もまたこの街を去ることになりましたが、彼はずっと忘れられない体験をしたことで、人々が抱える悲しみや思いに対して理解を深め、人として成長していくことができたのでした。
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