昔々、とある小さな村に、眠りの森と呼ばれる不思議な森がありました。その森は村人たちに古くから伝わる禁断の場所で、誰も足を踏み入れることはありませんでした。ある日、村の若者が森の秘密に興味を持ち、友達と共にその森に足を踏み入れることにしました。
若者たちは夕暮れ時に森の入り口で待ち合わせをし、背筋が凍るような恐怖を感じながらも、好奇心に駆られて森に入りました。森の中は静かで薄暗く、重苔むした木々が空を覆い、どこか別世界のような雰囲気が漂っていました。若者たちは小道に沿って歩き始め、次第に森の奥へと進んでいきました。
途中で若者たちは、薄ら笑いを浮かべた美しい女性の幽霊が現れる都市伝説を思い出し、おどけては笑いあいながら歩いていました。しかし、進むうちに、空気が一層重くなり、不安が募っていくのを感じました。森の中で夜が更けるにつれ、奇妙なことが起こり始めました。
木々の葉がさらさらと揺れる音に混じって、遠くで女性の美しい歌声が聞こえるような気がしたのです。最初は幻聴かと思いましたが、若者たちのうちの一人が声を聞いて、夢中になってその方向に向かって歩き始めました。他の若者たちもついて行くことにしましたが、気が付くと一人が行方不明になっていました。
彼らは不安に駆られながらも、行方不明の友達を探すために歌声の方向に向かいました。すると、彼らの目の前に美しい沼地が現れました。その中央には、女性の幽霊が微笑みながら佇んでいました。その女性はまさに都市伝説で聞いた美しい女性の幽霊そのものでした。
…
女性の幽霊は若者たちに微笑みかけながら、彼らに話しかけました。「私は昔、この村に住んでいた女性で、この森で不慮の死を遂げた。私はこの森の秘密を知っている。友達を返す代わりに、私の話を聞いてほしい。そして、この森の秘密を決して外へ漏らさないと誓ってほしい。」
若者たちは戸惑いながらも、友達を助けるためにその条件を受け入れました。すると、幽霊は若者たちに森の奥へと導いていきました。途中、幽霊は森の秘密について語り始めました。
「この森は、夜になると時間がゆがむ不思議な場所なの。森の中を歩くと、無意識のうちに過去や未来へと迷い込んでしまうことがある。私が歌っているのは、迷い込んだ人々がこの現実に戻れるように導くための歌声なの。しかし、歌に惹かれて沼地に来た者は、沼に取り込まれて二度と戻れなくなってしまう。」
若者たちは驚愕し、その話を信じられませんでしたが、幽霊は彼らをさらに森の奥へ連れていきました。森の奥には、美しい光景が広がっていました。そこには、過去に森に迷い込んだ多くの人々が、時空を超えた別世界で楽しそうに暮らしていました。
幽霊は若者たちに微笑んで言いました。「私はこの森で亡くなった後、この場所の番人となり、迷い込んだ人々を助けてきた。しかし、私にも力の限界がある。友達はまだ沼に取り込まれていない。だから、彼を助けることができる。ただし、森の秘密を守ることを誓ってほしい。」
若者たちは幽霊に感謝し、森の秘密を決して外へ漏らさないと誓いました。幽霊は笑顔で若者たちの願いを叶え、行方不明だった友達を無事に戻してくれました。
…
若者たちは、無事に友達を取り戻し、森の秘密を知ることになりました。しかし、彼らは約束を守り、森の秘密を決して村の外に漏らすことはありませんでした。その代わり、彼らは村の子供たちに、森に近づかないように注意を促す物語を語り継ぎました。そして、若者たちも次第に大人になり、村のリーダーとなっていきました。
何年も経ち、ある日、村に大きな火事が起こりました。村は炎に包まれ、多くの家が焼失してしまいました。若者たちは村人たちを連れて、眠りの森に避難することを決めました。森の中には、かつて幽霊が若者たちを連れて行った不思議な場所があり、そこで一晩過ごすことができると信じていたからです。
村人たちは森の中で夜を明かすことになりましたが、彼らは森の秘密に気づくことはありませんでした。なぜなら、若者たちは幽霊との約束を忘れることなく、村人たちに森の秘密を話さずに、ただ静かに過ごすようにと言い聞かせていたからです。一晩が過ぎ、翌朝、火事が収まった村に戻ると、再建のための支援が集まり始めました。
村はやがて復興し、再び平和な日々が戻りました。そして、若者たちも歳を重ね、村の歴史と共に語り継がれるべき物語を持つことになりました。しかし、彼らは幽霊との約束を守り続け、眠りの森の秘密は、いつまでも村の外には知られることはありませんでした。
時が流れ、その物語も次第に風化していきましたが、眠りの森は今でもその美しさを保ち、村人たちから敬われる場所となっています。そして、若者たちの子孫は、代々森を守り続けていると言われています。森の中には、今も幽霊が歌声を響かせ、迷い込んだ者たちを助けていると信じられているのです。
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